他人に迷惑をかけてしまったことで、その他人に何らかの損害を与えてしまった場合、損害を弁償しなければなりません。

これは、誰でもわかる社会のルールです。このルールを規定しているのが民法709条です。

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

交通事故を引き起こして相手の車や車載携行品を壊してしまった場合(物損事故)、その車や車載携行品を利用処分する権利(所有権)を侵害したことになりますので、民法709条によって、その損害を賠償する責任を負います。

交通事故を引き起こして相手に怪我を負わせてしまった場合(人身事故)、その身体を侵害したことになりますので、民法709条によって、その損害を賠償する責任を負います。

では、ここでいう「損害」とは何でしょうか?

学説上は諸説考え方がありますが、判例実務上は、

不法行為がなければ被害者が置かれているであろう財産状態と、不法行為があったために被害者が置かれている財産状態との差額

と定義されています。

そして、この差額は、

被害者個人の事情を具体的に斟酌して個別項目ごとの金額を積算することで算定します。

ですので、物損事故の場合は、事故がなければかからなかった金銭負担を、修理費、代車費用、レッカー費用、評価損 などの項目ごとに金額を出して、すべて足すことで、その事故による損害を算定することになります。

人身事故についても同様に、治療費、交通費、休業損害、逸失利益などの項目ごとに金額を出して、すべて足すことで損害を算定します。

ただし、注意しなければならないのが、慰謝料です。民法710条は次のように規定しています。

第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

他人にかけた迷惑が財産状態の低下だけでなく、精神面にも大きな負担を生じさせてしまった場合には、「財産以外の損害」があったとして、それを金銭に換算して賠償しなければならないという規定です。

よく誤解されるのですが、精神的損害は「嫌な思いをしたこと」ではありません。裁判官の目からみて、「そのような苦しい状況に陥ったら、数字上見えている損害以上の負担があったと評価するのが、社会常識的に妥当だ」といえる状況が生じていないといけません。

主観の評価ではなく、あくまで客観的状況に対する評価です。

交通事故では、基本的には、人身事故において①入通院が必要になった場合、②後遺障害が認められる場合、③死亡した場合にのみ慰謝料請求が認められています。

今回取り上げた不法行為責任は、交通事故における民事責任の基礎にあたる責任ですが、このほか人身事故に関する特有の責任である運行供用者責任や、欠陥自動車による事故に関する製造物責任も押さえておく必要があります。