自動車製作業関連のニュースで、最近、「脱炭素」「カーボンニュートラル(炭素中立)」という言葉をよく耳にします。その定義や自動車との関係性について、考えてみようと思います。

カーボンニュートラルとは、環境省によれば、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることをいいます。

ここで温室効果ガスとは、二酸化炭素、メタン、一酸化窒素、ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、フッ化硫黄をいいます。赤外線を吸収する効果を有していることから、温室効果ガスと呼ばれています。

温室効果ガスの国際的な枠組みは、気候変動枠組条約締約国会議で話し合われ、1997年に京都議定書、2015年にパリ協定を採択しています。

日本は、京都議定書で、2008年から2012年までの期間中に、温室効果ガスの排出量を、1990年時点の排出量を基準に-6%とすることを目標としていました。

しかし、環境省によれば、上記期間における現実の総排出量は逆に1.4%増えている結果となりました(なお、森林等吸収源及び京都メカニズムクレジットによって、数字上は-8.4%となり目標は達成しています。)。また、世界全体でみても、現実の総排出量は増加の結果となってしまいました。

そこで、パリ協定では、世界平均気温の上昇を2℃でとどめるという具体的な数値目標を掲げたうえで、その達成に必要な排出量を逆算して各国の排出量目標を定めました。日本は2030年までに、温室効果ガスの排出量を、2013年時点の排出量を基準に-26%を目標としています。

以上の歴史的経緯を踏まえると、カーボンニュートラルは、パリ協定で定められた目標達成のために、温室効果ガス(中でも最も温室効果が高く、排出量の大きい二酸化炭素)の排出をこれ以上増やさないという行動指針であるということができます。

そして、日本では、このカーボンニュートラルに向けた試みは、産業単位で具体的な目標設計がなされており、自動車産業に関しては、国土交通省経済産業省カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会を立ち上げ、議論がなされているところです。

現状、議論は、自動車使用時の二酸化炭素排出を抑えるために、輸送に占める自動車の分担率を見直し(MaaSCASEのSと関連)、自動車の電動化を推進する(CASEのEと関連)方向で進んでいます。そして、電動化を前提に、自動車製作時の二酸化炭素排出を抑えるために、電力・エネルギー事業に関する政策転換も検討されています。

一方、カーボンニュートラルに関連して、自動車の動力源について、化石燃料か電力か水素か三者択一の話として語られることがあります。しかし、カーボンニュートラルの視点からみると、動力源の話は自動車の使用のみに場面を限定した議論で、この議論からは答えは出てきません。

自動車は世界中様々な場所で製作され、また世界中様々な場所で使用されていますが、国・地域によって、電力・エネルギー政策は千差万別で、自動車の製作・使用事情もまた千差万別です。ですので、どこで製作されどこで使用される自動車であるかによって、カーボンニュートラルの最適解が異なってくるのです。

したがって、自動車メーカー等自動車製作者としては、安全で安定的なサプライチェーン・バリューチェーンの構築のために、これら千差万別の事情を考慮して、リスクマネジメントすることが必要となってきます。