自動車産業のキーワードとして「CASE」という言葉がありますが、今回は、そのうちのA(=Autonomous)について考えます。

自動運転とはどのような状態を示すのでしょうか。

人は、自動車を走行させようとする際、まず五感で周囲の状況に関する情報を検知し、検知した情報を脳内で処理して運転環境を認知します。そして、認知した運転環境から、次に起こる事象を予測して、これに対応するために必要な車両の動静を判断し、その判断に沿うように自身の手足を動かして車両を操作します。

この検知→認知→予測→判断→操作の過程の一部又は全てをシステムが担うことを運転の自動化といいます。運転の自動化には、システムの分担度合に応じたレベル分けがなされています。

レベル0(運転自動化なし):いずれの運動制御も人が行う。

レベル1(運転支援):横方向又は縦方向いずれかの運動制御のみ限定領域内でシステムが行う。

レベル2(部分運転自動化):横方向及び縦方向の運動制御を限定領域内でシステムが行う。ただし、人が常にシステムを監視しなければならない。

※ここまでは運転の主体はあくまで人です。日本では、レベル1及びレベル2を総称して、運転支援と呼んでいます。これ以降、運転の主体はシステムに移ります。

レベル3(条件付運転自動化):すべての運動制御を限定領域内でシステムが行う。ただし、システムが求めれば人はいつでも適切に応答しなければならない。

レベル4(高度運転自動化):すべての運動制御を限定領域内でシステムが行う。人の応答は要求されておらず、想定外の出来事にもシステムがすべて対処する。

レベル5(完全自動運転化):領域の限定なく無制限に、すべての運動制御をシステムが行う。

今の日本の法律では、レベル3までが可能となっています。そして、道路運送車両法で、レベル3以降の運転自動化システムを「自動運行装置」、装置ごとに設定される限定領域を「走行環境条件」と定義して、保安基準で具体的な規格を細かく定めています。

道路交通法では、自動運行装置による自動車の走行も「運転」と呼ぶと規定され、自動運行装置作動中も、運転者に基本的には安全運転義務(道路交通法70条)を初め、様々な交通ルールが適用されることとなりました。

ただし、とても重要な例外規定が設けられました。それが道路交通法71条の4の2です。

自動運行装置が適切に作動している間は、携帯電話などの無線通話装置、タブレットや車両内モニターなどの画像表示装置を見てもよいという規定です。この規定が設けれられたことにより、レベル3の自動運転中に発生した交通事故につき、運転者が過失を問われないということが生じうることになります。

これは、自動運転社会を迎えるためには避けて通れないパラダイムシフトですが、交通事故の民事上の法的責任を考えるうえで、とても重要な問題が生じます。それは、

特定の交通事故の責任を、自動車メーカーに不法行為責任又は製造物責任として問うことができるのか。運転者が責任を負わないことがありえるのか

という点です。この問題は、未だ完全には解決していない難問ですが、少しずつ部分的に議論され、整理されつつあります。また別の機会にしっかり掘り下げたいと思います。