今回は、車がインターネットによって外部と繋がることで(CASEのC「繋がるクルマ」)、ハッキングされてしまった場合に、被害者、加害者その他関係者がどのような法律関係に置かれるのか?ということを考えるシリーズ第3弾です。

第1弾では、ハッカーに懲役または罰金の刑罰が科されることを確認しました。第2弾では、データの盗み出し/改ざんの被害に遭った場合の被害回復の方法について考えました。今回は、ハッキングによって運行支配を乗っ取られた状態で交通事故が起こった場合の話です。

運転者や運行供用者には事故の責任を問い得ないのですから、単独事故の場合は、ハッカーに対して不法行為損害賠償責任(民法709条)を、相手がある事故の場合は、ハッカーと事故相手方に対して共同不法行為責任(民法719条1項)を問うことになります。法律論としては、加害者は明らかですので、このようにクリアに整理できます。

しかし、問題はこのハッカーの特定が実際にはほぼ不可能ということです。

訴訟を起こしたり、調停を申し立てたりするためには、請求の相手方の氏名と住所が最低限必要です。これが判明していないといくら被害の状況が明らかになっていても、損害賠償を請求することはできません。

このような相手方特定困難な被害に遭った場合の備えとして、任意保険に加入しておくのは、重要なことではあります。

任意保険のような自らの経済力で備えておくことができなかったときには、交通事故によって人身損害を被った被害者にはセーフティネットが用意されています。自動車損害補償法72条1項により、政府が本来加害者が責任を負うべき損害の填補を保障するという制度です(政府保障事業)。十分ではありませんが、損害賠償金に近い金額の保障をうけることができます。

ハッカーの特定の方法についても別の機会に考えてみたいと思います。